将の力量

MOTOGPは2022年の全テストを終えて、開幕戦カタールまであと

10日に迫りました。

事前テストを見る限り、今年もアプリリアは好調を維持しているようで

去年の表彰台一回を上回るリザルトも期待できそうな状態です。

 

それにしても、一時期は万年テールエンダーで、ここに行ったライダーが

GPキャリアを終えることになるGPライダーの姨捨山と化していた

アプリリアの見事な復活劇は、やはり組織を率いる人間の才能によって

組織はどうとでも変わるということを強く印象付けるものですね。

 

アプリリアが全く仕事が出来ないロマーノ・アルぺジアーノの上の

ポジションに元フェラーリのF1チームに居たマッシモ・リボーラを

抜擢したのは3年前の出来事だったでしょうか。

 

彼は2019年の夏ごろに合流したと思いますが、半シーズンを見て、まず判断したのは

MOTOGP参戦以来使い続けていた狭角エンジンを捨てて、90度バンクのエンジンを

新たに作ることを決定したことでしたね。

狭角エンジンには将来性が無いと判断したんでしょう。

狭角エンジンはどうしても振動が出ますのでバランサーシャフトを

入れなければならないため、エンジンのサイズは大きくなるし、パワーアップに

問題が出てしまう。

他のV4メーカーは全部90度バンクでしたからね。

それからMOTOGPは81㎜というボア規定があるため、ビッグボアショートストローク

エンジンが作れません。

狭角エンジンにすると、90度エンジンよりどうしてもエンジン高が高くなってしまうんですよね。

これは搭載位置に制限がかなり出てしまう。

加えて、エンジンの上に載るエアボックスの容量も狭くなってパワーアップに支障が出えてしまう。

などなど、ネガポイントが多くポジポイントが少ない。

これは慧眼でした。

 

2020年開幕前、ニューエンジンの完成は遅れに遅れてセパンテストに間に合うか

というタイミングでしたが、このエンジンの投入が無ければその後の

躍進はあり得なかったでしょう。

それでもこのシーズンはパワーが足りないとか色々言われてましたね。

お金のないアプリリアは一度にあれもこれも出来ませんから、

この年は、まずエンジンの信頼性、リライアビリティの確保に注力したというところでしょうか。

 

翌年2021年、アプリリアが打ってきたのは、エンジンのパワーアップ・・・ではなく

車体の軽量化でした。

当時のアプリリアMOTOGPの最低重量を上回っていたんですよね。

もう何年も他メーカーのマシンは最低重量よりも軽くマシンを仕上げて

足りない分を車体各所にバラストを積んで調整するのが常道で、

これはサーキットごとの特性に合わせて車体の重量配分を微調整することによって

細かい合わせこみをするのが戦略のひとつに取り入れられているからです。

アプリリアは今までそれが出来ていなかったんですよね。

それをやってきた。

その結果が、MOTOGP初の表彰台獲得に繋がりました。

 

そして今年。

今年はどうやら車体のコンパクト化、前面投影面積の縮小を図ってきているようです。

実はエンジンのパワーアップというのは地味で時間とお金がかかる作業ですが、

それよりも車体の前面投影面積を小さくした方が早く効果的に安く

トップスピードを伸ばせる手段です。

それがテストでのトップスピードの伸びに繋がっている感じですかね。

 

こうやって見ていくと、リボーラ加入以降のアプリリア

実に効果的な打ち手を、打ってきているというのがわかると思います。

アプリリアの技術者が突然優秀になったというよりも、元々優秀なんだけど、

MOTOGPを戦っていく上で、どの打ち手が有用なのか技術者レベルでは判断できなかった。

それをきちんと指示できる上司が来て、次々と指示を出した結果が今に結びついているということがわかりますね。

 

ホントに将の力量って大事だと思わせる部分ですね。

 

しかし、この段階になってもアルぺジアーノが組織内でそれなりのポジションに

いるっていうのは、よほど彼は本社にコネがあるんだろうな。

普通は責任取らされて左遷コースだわい。

(現在、アルぺジアーノの肩書はアプリリアMOTOGPプロジェクトの

ディレクター、

マッシモ・リボーラはアプリリア・レーシングのCEO)