ステップアップの壁
ポルティマオの合同テストを前にへレスで行われた
2日間のプライベートテストで今年からMOTO2クラスに
ステップアップしてきたペドロ・アコスタが初日2番手
2日目はトップタイム、総合で2番手という好タイムをマークしました。
去年ルーキーながらMOTO3の世界王者に輝いた彼ですが
早くもMOTO2マシンを手の内に入れてきたようですね。
彼のようにすんなりMOTO2に適応するライダーもいれば
躓くライダーもいるのが、小排気量から中大排気量へのステップアップ。
それを阻んでいるのは何か?なぜか?について今回は触れてみたいと思います。
まず、根本的に異なるのはライディングの組み立てでしょうかね。
MOTO3の場合、絶対的なパワーが少ないですから限られたパワーを
少しでも有効に使うため、コーナーリングも極力エンジンの回転数を
保つために、高いコーナーリングスピードで回ることを要求されます。
特に4ストは開けていくとフラットにパワーが出ますから、立ち上がりで
500回転の差がついていたら、その先その差が縮まることはありません。
タイヤのエッジを使ってギリギリのスピードを維持して旋回することが要求されます。
対してMOTO2のようなパワーのあるマシンになると、とにかくそのパワーを
生かす方がタイムの短縮に繋がります。
つまり、いかに早くマシンの向きを変えて大きくアクセルを開けられる状態に持っていくか。
ここでポイントになってくるのは、あくまでも向きを変えるのを早くするであって、
コーナーリングスピードを高くしろでは無いところでしょうか。
つまり、コーナーの進入でしっかり減速することによって、マシンをコンパクトに
曲げるということですね。減速が足りないと、マシンに慣性力が働きますから
なかなか向きが変わらず、アクセルを開けられない状態が続くことになります。
この辺がライダーの感覚としてスピードを落としきることが出来ないというのも
乗り換えの難しいところですね。
速く走るために、しっかり減速するっていう・・・。
去年、MOTO2でタイトルを獲得したレミー・ガードナー。
彼はコーナーの進入で非常にハードにブレーキングをして、エイペックス付近でしっかりスピードを落とすことによって小さく、コンパクトにマシンを曲げて、大きくアクセルを開けるというパパと同じような乗り方を見せて強さを発揮しました。
彼がCBRの4気筒エンジンから、トライアンフの3気筒エンジンになってから
台頭してきたのは、トルクが細い600㏄4発だとある程度の回転数の維持を求められるのに対して
765㏄の3発の方がしっかり減速しても、鋭く力強く加速するので、
レミーの乗り方にマッチした部分も大きいと思います。
ただ、MOTO3の感覚が残っていて、その走りのままで速さを
発揮しているライダーもいることも確かです。
その典型がレミーのチームメイトであるラウル・フェルナンデスですね。
彼はまるでMOTO3のごとく高いスピードでコーナーに飛び込んで、そのスピードを
維持しながら、見事にマシンを曲げて立ち上がりに繋がるテクニックで結果を残しました。
実際は彼はわずか1年でMOTO2の最多勝記録を塗り替える速さを見せました。
しかし、この走り方はリスクを伴うのも確かで、MOTO3がライダー込みの総重量が152㎏に対して、MOTO2はライダー込みの総重量が217㎏となっていますから、
ライダーが同じ重量ならば、その差は65㎏となっています。
加えて最高速がMOTO3は約240㎞/h、MOTO2は約300㎞/hですから、コーナー進入で
フロントタイヤにかかる負担は相当なものです。
MOTO3に比べて段違いにフロントへの負担が大きいんですよね。
予選のように空タンク+ソフトコンパウンドで一周のみのアタックならまだしも
レース距離で、この車重でこの速さのマシンでコーナー進入の速度が高い乗り方を
していると、常にフロントタイヤの消耗と転倒、スリップダウンのリスクを抱えながら走ることなります。
実際、ラウルがタイトルを逃すことになったのも、決勝中の転倒によるノーポイントが
響いたことは象徴的なような気もします。
タイプ的にはMOTOGPのホルヘ・マルティンもこの部類ですね。
一発の速さはあるけど、転倒も多い。
彼も昨シーズン、速さを見せながら転倒負傷で欠場しています。
ではアコスタはどうか?というと、彼は非常にマシン操作が上手いライダーですね。
特にブレーキングからのコーナーエントリーが抜群にうまい。
彼の走りで特徴的なのは、ブレーキングで相手のインに入って、一本内側の
窮屈なラインを通っているにも関わらず、立ち上がりでロスなくしっかり加速して
立ち上がれること。
つまり、進入の時点で、立ち上がりまでの加速ラインを考えて走ることが出来る。
しかもその時々で何本かラインのオプションを持っていて、どこを走っても
綺麗に立ち上がることが出来る。
これはMOTO2で重要なポイント。
彼はMOTO3の時点でそれが出来ていた。
また、去年の時点でトレーニングにヤマハのR6を使ってますから大きなバイクで
ずっと練習していたんですよね。だから大きく重たいバイクの操作にも何も問題は無いようです。
そうそう、このバイクが重たいというのも乗り換えで大きな壁となる部分で
軽量なMOTO3の場合、極端な話ハンドルを握っている側の肩を下に下げるとか
ちょっとしたきっかけでマシンが動いてくれますけど、大排気量になってくると
しっかり操作しないとマシンが言うことを効いてくれません。
特にステップワーク、体重移動をメリハリをつけてやらないとマシンの姿勢を制御出来ないですし、サスペンションの動きを使うというのもポイントでしょうか?
MOTO3はちょっとパワーロスも抑えるために極力リヤサスとか動かない方向でセットアップしますが
MOTO2とかになるとむしろ、サスを動かしてマシンを動かすことが必要です。
が、アコスタは去年の時点でそれが出来ていたと思います。
そう考えると、これは今年もアコスタフィーバーが吹き荒れる予感がしてならないです。