ステップアップの壁

ポルティマオの合同テストを前にへレスで行われた

2日間のプライベートテストで今年からMOTO2クラスに

ステップアップしてきたペドロ・アコスタが初日2番手

2日目はトップタイム、総合で2番手という好タイムをマークしました。

 

去年ルーキーながらMOTO3の世界王者に輝いた彼ですが

早くもMOTO2マシンを手の内に入れてきたようですね。

 

彼のようにすんなりMOTO2に適応するライダーもいれば

躓くライダーもいるのが、小排気量から中大排気量へのステップアップ。

それを阻んでいるのは何か?なぜか?について今回は触れてみたいと思います。

 

まず、根本的に異なるのはライディングの組み立てでしょうかね。

MOTO3の場合、絶対的なパワーが少ないですから限られたパワーを

少しでも有効に使うため、コーナーリングも極力エンジンの回転数を

保つために、高いコーナーリングスピードで回ることを要求されます。

特に4ストは開けていくとフラットにパワーが出ますから、立ち上がりで

500回転の差がついていたら、その先その差が縮まることはありません。

タイヤのエッジを使ってギリギリのスピードを維持して旋回することが要求されます。

 

対してMOTO2のようなパワーのあるマシンになると、とにかくそのパワーを

生かす方がタイムの短縮に繋がります。

つまり、いかに早くマシンの向きを変えて大きくアクセルを開けられる状態に持っていくか。

ここでポイントになってくるのは、あくまでも向きを変えるのを早くするであって、

コーナーリングスピードを高くしろでは無いところでしょうか。

つまり、コーナーの進入でしっかり減速することによって、マシンをコンパクトに

曲げるということですね。減速が足りないと、マシンに慣性力が働きますから

なかなか向きが変わらず、アクセルを開けられない状態が続くことになります。

この辺がライダーの感覚としてスピードを落としきることが出来ないというのも

乗り換えの難しいところですね。

速く走るために、しっかり減速するっていう・・・。

 

去年、MOTO2でタイトルを獲得したレミー・ガードナー。

彼はコーナーの進入で非常にハードにブレーキングをして、エイペックス付近でしっかりスピードを落とすことによって小さく、コンパクトにマシンを曲げて、大きくアクセルを開けるというパパと同じような乗り方を見せて強さを発揮しました。

彼がCBRの4気筒エンジンから、トライアンフの3気筒エンジンになってから

台頭してきたのは、トルクが細い600㏄4発だとある程度の回転数の維持を求められるのに対して

765㏄の3発の方がしっかり減速しても、鋭く力強く加速するので、

レミーの乗り方にマッチした部分も大きいと思います。

 

ただ、MOTO3の感覚が残っていて、その走りのままで速さを

発揮しているライダーもいることも確かです。

その典型がレミーのチームメイトであるラウル・フェルナンデスですね。

彼はまるでMOTO3のごとく高いスピードでコーナーに飛び込んで、そのスピードを

維持しながら、見事にマシンを曲げて立ち上がりに繋がるテクニックで結果を残しました。

実際は彼はわずか1年でMOTO2の最多勝記録を塗り替える速さを見せました。

 

しかし、この走り方はリスクを伴うのも確かで、MOTO3がライダー込みの総重量が152㎏に対して、MOTO2はライダー込みの総重量が217㎏となっていますから、

ライダーが同じ重量ならば、その差は65㎏となっています。

加えて最高速がMOTO3は約240㎞/h、MOTO2は約300㎞/hですから、コーナー進入で

フロントタイヤにかかる負担は相当なものです。

MOTO3に比べて段違いにフロントへの負担が大きいんですよね。

予選のように空タンク+ソフトコンパウンドで一周のみのアタックならまだしも

レース距離で、この車重でこの速さのマシンでコーナー進入の速度が高い乗り方を

していると、常にフロントタイヤの消耗と転倒、スリップダウンのリスクを抱えながら走ることなります。

実際、ラウルがタイトルを逃すことになったのも、決勝中の転倒によるノーポイントが

響いたことは象徴的なような気もします。

タイプ的にはMOTOGPのホルヘ・マルティンもこの部類ですね。

一発の速さはあるけど、転倒も多い。

彼も昨シーズン、速さを見せながら転倒負傷で欠場しています。

 

ではアコスタはどうか?というと、彼は非常にマシン操作が上手いライダーですね。

特にブレーキングからのコーナーエントリーが抜群にうまい。

彼の走りで特徴的なのは、ブレーキングで相手のインに入って、一本内側の

窮屈なラインを通っているにも関わらず、立ち上がりでロスなくしっかり加速して

立ち上がれること。

つまり、進入の時点で、立ち上がりまでの加速ラインを考えて走ることが出来る。

しかもその時々で何本かラインのオプションを持っていて、どこを走っても

綺麗に立ち上がることが出来る。

これはMOTO2で重要なポイント。

彼はMOTO3の時点でそれが出来ていた。

また、去年の時点でトレーニングにヤマハのR6を使ってますから大きなバイクで

ずっと練習していたんですよね。だから大きく重たいバイクの操作にも何も問題は無いようです。

 

そうそう、このバイクが重たいというのも乗り換えで大きな壁となる部分で

軽量なMOTO3の場合、極端な話ハンドルを握っている側の肩を下に下げるとか

ちょっとしたきっかけでマシンが動いてくれますけど、大排気量になってくると

しっかり操作しないとマシンが言うことを効いてくれません。

特にステップワーク、体重移動をメリハリをつけてやらないとマシンの姿勢を制御出来ないですし、サスペンションの動きを使うというのもポイントでしょうか?

MOTO3はちょっとパワーロスも抑えるために極力リヤサスとか動かない方向でセットアップしますが

MOTO2とかになるとむしろ、サスを動かしてマシンを動かすことが必要です。

が、アコスタは去年の時点でそれが出来ていたと思います。

 

そう考えると、これは今年もアコスタフィーバーが吹き荒れる予感がしてならないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3年目のRRR

WSB勢の先陣を切ってホンダワークスが今年の体制を

お披露目しました。

 

3年前に鳴り物入りWSBにワークス復帰したホンダですが

過去2年の成績は3位獲得がわずか3回で、タイトル争いを繰り広げる

カワサキヤマハドゥカティはもちろん、一番直近のライバルと

目されるBMWでさえ、去年は優勝してますから

ワークスチームの成績としてはどん尻です。

 

今年はライダー2人を一新し、更には足回りのメーカーも

ショーワ、ニッシンに置き換えるなど、過去2年のノウハウの上積みというよりは

新たなスタートという感は強いですね。

 

果たして今年は念願の優勝あるいはタイトル争いに絡む存在に

なれるんでしょうか?

 

昨年のリザルトを見ると少なくともトップスピードはWSB随一と

言われるドゥカティに匹敵するものがあって、直4勢としては最強の

パワーを誇るエンジンであることは間違いないと思います。

 

ただ、そのエンジンの速さを相殺するくらいコーナーが遅いというか

苦戦している感は強いですね。

特にブレーキングから、コーナーエイペックスのエントリーで、

車体がかなりスネーキングするのが気になるところです。

これでは安定したコーナーリングアプローチは出来ません。

例えば、ヤマハのトプラックのブレーキングなんか見ていると、

リヤタイヤが浮くくらいの強烈なブレーキをかけてもフロントの

タイヤの接地面に車体の重さがしっかりかかって、フロント一本で

綺麗に真っすぐ止まっていて、全然スネーキングしないんですよね。

だから、そのまま寝かしこみに繋がっていける。

ホンダの場合、スネーキングが収まるまで待たないと寝かしこめませんから、

結果的にコーナーリングスピードが遅くなることになります。

だからエンジンの速さが相殺されてしまう。

 

本来はブレーキングした時にエンジンの重さが、タイヤの接地面に乗っかって

タイヤが潰れてそこに荷重が集中するのが望ましい感じですが、

ホンダはエンジンの荷重が上手く乗ってくれてない、タイヤのグリップを

引き出し切れてない感じがするんですよね。

エンジンの搭載位置が低すぎるのかな??

あるいはよく言われるようにフレームのレイアウトが悪いのか。

ちなみにBMWもかなりスネーキングしてます・・・。

 

漏れ聞こえてきた噂ではこのRRRはピレリの特性に合わせて

フレームを作っているため、全日本のブリヂストンには合ってないとも

言われてますが、WSBで結果が残せないとなると、何のためのピレリ

フレームなのかという感じはしてしまいますね。

 

そうなると、いくらサスを変えようが、電子制御を弄ろうが根本的な

ディメンションが要因だとすると浮上は相当に厳しいと言わざるを得ないですね。

今年、一年戦ってみてやはり結果が出ないようだと

いよいよニューフレームの投入をホンダも決断するかも知れません。

と言っても来年投入するなら夏ごろには決断しないと間に合いませんが・・・。

だから前半の結果が重要になってくる。

 

ただし、MOTOGPのようにマシン設計もHRCがやっているプロトタイプカテゴリーと違って

CBRの場合、あくまでも市販車ですから、HRCの勝手には出来なくって

本田技研サイドにお伺いを立てなければならないのが難しいところです。

本田技研がノーって言ったらそれでお終いですからね。

 

ホンダとしてもメーカーの意地がありますから、何が何でも結果を

残さないと、このままでは撤退もするにも出来ないという感じですし、

どこで反撃の体制に転じるか?ですね。

MOTOGPの方が目途がついたらこっちもかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖域無き改革

年末恒例のメーカー関係者インタビューの中でHRCの方が

2021年を振り返って、聖域なき改革と仰っていたんですよね。

 

それはここ2年間のRC213Vの不振を振り返り、マシンの開発改良に

対して、ここは触れないという部分を排して全面的に見直し改良を

進めていくという決意の表れだったと思います。

 

果たして、登場した2022年型RC213Vはルックスからして大きく変貌して

登場しました。

また、ルックスだけでなくテストに臨んだライダーから好感触のコメントが

聞かれ、特にポル・エスパルガロは好感触だったようですね。

 

昨年までのRC213Vの抱えているウィークポイントは大きく2つあって

ひとつは、2020年にミシュランが投入した新しいリヤタイヤのグリップを

上手く発揮できないこと。

昨年の開幕戦カタールで、レプソルのマシンが型落ちのモルビデリのM1を

直線で抜けないシーンがありましたが、あれはエンジンパワーが足りない

というよりは、リヤタイヤのトラクションが上手くかかって無くて、パワーが

きちんと路面に伝わっていないことを象徴するシーンでしたね。

また、シーズン中のハイサイドの多さも去年は印象が深いです。

リヤタイヤが深い部分でグリップしていないので、あっという間にグリップを

失ってしまうんでしょう。

これに対して桒田ディレクターは新しいミシュランタイヤは優しく接地させないと

いけないとコメントしていました。

それを受けてか、今年のRC213Vはフレームが更に柔らかくなって、しっとりと

リヤタイヤを路面に押し付けることが出来ているようですね。

加えて、ドゥカティが先鞭をつけたリヤの車高調整システム、通称シェイプシフターの

開発も好調なようで、リヤタイヤを路面に押し付けて逃さない高いトラクション能力を

発揮してくれているようです。

ポルによれば、彼はリヤブレーキを多用するライダーでとにかくブレーキングから

コーナーリング、立ち上がりまでほぼリヤブレーキを使っているそうで、そのため

リヤタイヤのグリップが凄く重要。

去年のマシンでは全く自分の走りが出来なかったけど

今年のマシンはそれが出来るとのことです。

 

もうひとつのウィークポイントはフロント周りの限界特性の改善ですかね。

それまでもRC213Vはフロントが切れ込みやすくって、多くのライダーが

その犠牲になっていましたが、それをこれまで放置していたのはマルク・マルケス

という類まれなるライダーの危機回避テクニックによって、転倒を回避し

結果を残し続けたという実績があったからでしょう。

しかし、2021年、負傷から復帰したマルクからはそのミラクルのようなセーブテクニックは

失われており、転倒を回避できず、そのまま転倒してしまうケースが多く散見されたように思います。

そうなれば、ホンダとしてはこのフロントのシビアな特性を回避するためには

フロント周りの改善はマストで、今年はその部分に着手してきたかなと。

 

具体的にはエンジンの搭載位置をやや後ろにしたかな?

ホントにミリ単位の話なってくるかと思いますが、それにより、先に述べたリヤのトラクション改善にも繋がりますし、フロントのシビアな特性も緩和されるかと。

実際、テストで乗ったライダー達からもブレーキングエリアでのフロントの特性が

変わったというコメントも出ていますね。

エンジンが前にあるとブレーキングの時に一気に荷重がタイヤに乗っかってしまって

フォークはフルボトム、タイヤも潰れ切って、ダンピング性能が失われ、容易く

タイヤが切れ込むことになりますからね。

ちなみに6メーカーのMOTOGPマシンの中で最も前輪荷重が多いのはホンダと

言われています。

これは高荷重をかけることによって性能を発揮したブリヂストンタイヤ時代の

車体ディメンションの名残だと思われます。

 

また、エンジンを下げることによって、タイヤとラジエターの距離が開くと、

カウル周りのウィングレットの効果も高まることになりますね。

アプリリアKTMなんかを見てもわかると思います。

これはフロントタイヤ周辺で発生する乱気流から遠ざけることで

ウィングレットに綺麗な風が当たるようにという狙いか。

 

ただエンジンの搭載位置を動かすということは、その上に載っている

エアクリーナーの形状も変わりますからエンジンパワーにも響きますし、

エンジンの後ろにある燃料タンクの形状も変わりますからもう車体が

ほぼ全面的に変わるくらいの大仕事になりますからリスクは高いですよね。

それをやってきたか。

 

こうした改良が功を奏した感じはテストの結果からわかりますが、それでも

他メーカーにアドバンテージを持ったというよりはようやく他メーカーと

同じ土俵に上がって来れたという感じですね。

戦いはこれからです。

 

でも、ダメだと思ったら大きく舵を切る。

これはホンダの良き伝統ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイヤのもたらす混戦

セパン、マンダリカのテストを終えて、いよいよMOTOGP

開幕戦を迎えます。

 

この5日間のテストを見る限り、これまで以上に混戦の度合いが

強まっているように感じます。

その原因のひとつはミシュランワンメイクタイヤが今年から

少し方針を変えてきたことが影響しているように思います。

というのも、ミシュランによれば今年は45種類近くあったタイヤの種類を

30種類まで減らす方針とのこと。

 

これが何を意味しているかというと、これまでは週末に供給されるタイヤは

ハード、ミディアム、ソフトという3種類のコンパウンドでした。

ただ、例えば、ソフトと一口に言っても、カタールで使うソフトと

へレスで使うソフトともてぎで使うソフトは違うソフトタイヤなんですよね。

カタールは滑りやすい路面でナイトレースだから路面温度は低いのでグリップ重視の

ソフトタイヤ。

へレスはコーナーリング区間が多く、路面温度もそこそこ高く周回数が多いので

グリップと耐久性を両立したソフトタイヤ。

もてぎは秋開催なので、路面温度はそれほど高くならず、ただし非常にストップ&ゴーの

レイアウトのため、グリップよりタイヤのしっかり感が必要なソフトタイヤ。

と、ソフトタイヤでも開催されるコースの特性、開催時期の温度などを考えて

最適なタイヤを持ってくるため、実質サーキットごとにソフトも種類があるような

ものなんですよね。

まあ、実際は特性が近いコースでは同じソフトタイヤを持ってきたりするようですが。

 

だからタイヤの種類が非常に多かったのがこれまでの状況。

 

それを減らします。という話なんですよね。

 

そうするとどうなるか?

要はこれまでは例えば、A、B、Cの3種類のコースで使っていたタイヤを

A、B、Cに加えてDとEのコースでも同じタイヤを持ってきます。ということ。

タイヤ自体の守備範囲が広くなることが求められるようになります。

タイヤの守備範囲とは?

これはミシュラン自身が説明していますが、要は適用温度域が狭いタイヤを

ラインナップから落として、より幅広い温度域に対応したタイヤを使います

ということになる模様。

 

去年までのMOTOGPを見ていればわかりますが、ミシュランのタイヤは

作動するタイヤの温度域が非常に狭い上に、そこを外した時に性能の

落ち加減が大きくって、それが外から見ていると、タイヤのアタリ、ハズレ

という形で出ていたと思います。

あれは要はタイヤがピンポイントすぎて、大半のチーム、ライダーはちゃんと

作動させられない状態だったと思います。

 

しかし、今年はタイヤの種類が減る、つまり作動域の広いタイヤを使います

という話ですから、去年ほど、タイヤの温度域を外すチーム、ライダーは減るんじゃないかな?

と推測されます。

そうなると、去年以上に多くのライダーがきちんとタイヤの性能を発揮して

走ることが出来る、だから混戦になる。

それがセパン、インドネシアでのテスト結果にも表れている。

そう思いましたね。

 

ちなみに2023年に新しいリヤタイヤと2024年に新しいフロントタイヤを

投入すると明言してますから、2020年に新しいリヤタイヤが投入された時の

ようなパワーバランスの地殻変動が再び起きる可能性大です。

 

ヴァレンティーノ・ロッシとその愛機たち(2)

さて、2000年いよいよ最高峰クラスに上がったロッシが

初めて乗ったのが2000年型NSR500です。

 

このマシン、絶対王者ミック・ドゥーハンが5連覇した時の

マシンから大きな変更を加えておらず基本的な特性は

ミックの好みのままのマシンと思われます。

 

ミックの好み、つまり彼のようにダイナミックのマシンの

上で積極的に前後左右に体重移動を行い、マシンを振り回すスタイルに

合わせてマシンが作られている。

ミックのライディングの特徴として、マシンの倒しこみの速さ

ブレーキングを終えてから、フルバンキングまでの切れ味が挙げられると思います。

だから、彼はフロントに17インチのタイヤしか履かなかったんですよね。

彼が現役だった時代、すでにミシュランは16.5インチの接地面がよりファットな

タイヤを開発投入していましたが、ミックはこれを使うことはありませんでした。

彼やレイニーのように寝かしこみのキレを求めるライダーは使わなかったようですね。

対してハードにブレーキをかけるライダー、ガードナーやシュワンツはこれを好んで使ったようです。

余談ながら、シュワンツの93年のタイトル獲得は、この16.5インチタイヤに合わせて

マシンセッティングを仕上げたのが原動力だと思っています。

 

そんな17インチのフロントに合わせて開発されたNSR500でしたが、90年中盤以降500㏄クラスに台頭してきた中小排気量出身のヨーロピアンや日本人ライダーは

中小排気量の乗り方のまま、500に来てますから、ブレーキングしながらクリップに向かっていくスタイル。だから、フロントには16.5インチタイヤを選ぶことになります。

 

決して、マシンとタイヤのマッチングがベストとは言い難いわけです。

 

それでも99年にはクリビエがタイトルを獲得したわけですが、当時の状況を振り返ると、

クリビエがホンダワークス6シーズン目だったのに対して、ビアッジはヤマハ初年度、

しかもヤマハはそれまでのチーム・ロバーツ、レイニーといった外部チームにワークス活動を託すのでなく、自社ワークスを立ち上げたばかりの段階、スズキのケニーJr加入初年度で、まだまだマシンとのマッチングを探っている時期で、まあ、クリビエに有利な状況だったというわけで、ヤマハとスズキが体制を整えた2000年になると、

完全に横並びになりましたよね。

だからホンダは2001年に向けてフロント16.5インチに合わせてマシンを一新した

新型NSR500の投入を余儀なくされるわけです。

 

それでも500㏄参戦初年度でロッシは2勝、ランキング2位でホンダ勢では最上位は

さすがでしたね。

この辺の要因は次回、触れたいと思います。

 

 

 

 

ヴァレンティーノ・ロッシとその愛機たち(1)

2021年限りでその26年に及ぶキャリアに終止符を打った

ヴァレンティーノ・ロッシ

 

ここでは彼が最高峰クラスで駆った愛機たちについて、当時のレギュレーションの

変遷も含めて、彼がどう戦っていったのか振り返ってみたいと思います。

 

最初は125cc時代と250cc時代に走らせたアプリリアのワークスレーサー

RS125とRSW250ですね。

彼は125で1996と1997の2シーズン、250で1998と1999の2シーズンを戦い

それぞれ、1997と1999に世界王者に輝いています。

 

当時は、現在のMOTO2、3と違って中小排気量クラスでもワークスマシンが

存在しており、金とコネのあるライダーは一台1億円すると言われる

ワークスマシンを手にすることが出来ました。

イタリアメーカーのアプリリアが自国のスーパースターの卵である

ロッシを全面的にバックアップするためにワークスマシンを用意するのは

ある意味当然と言えるでしょう。

 

ワークスマシンはエンジンが他の市販レーサーよりも速いのは言うまでもないことで

カウルやシートカウルもライダーの体格に合わせて作られています。

ロッシはこの頃から既に長身でしたから、彼専用のカウルやシートが必要だったのでしょうね。

ちなみに現在のMOTO2、3のレギュレーションでは特定のライダーに合わせて

カウルやシートカウルを加工することは禁止されており、あくまでも市販状態のまま

乗ることをとされています。

ですから、MOTO3マシンなんかは長身ライダーは非常に窮屈な姿勢で乗らざるを得ない

という状況にあり、それを理由にMOTO2に行くライダーも多いですね。

 

話を戻すと、125時代、250時代から彼は既に彼専用のマシンを用意され(ルーキーイヤーの1996年は除いて)て走っていたわけですから、その時点で大きなアドバンテージを

得ていたわけでです。

 

加えて、125cc時代の2年目となった1997年は2年連続王者の青木選手が250へ、上田さんは資金難で毎レース走るのがやっと、坂田さんはライディングスタイルを変更中と

際立って対抗できる存在は不在だった中でのタイトル獲得。

 

250cc時代の2年目となった1999年はライバルらしいライバルがほぼ不在のシーズンで

前年までチームメイトだった原田さんは500へ、カピロッシはホンダへ移籍、テック3ヤマハはまだ戦闘力が低く、加藤大治郎はフル参戦していないという状況で、シーズンを通して対抗しうる存在は宇川さんのみでした。

 

ですから、2度の世界王者獲得と言っても、圧倒的に有利なハードを手にした上での

アドバンテージをもってのタイトル獲得であり、もちろん速いライダーではあったけど、

後の伝説に残るような凄いライダーになるという印象は無かったように思います。

 

むしろ、派手なパフォーマンスやマシン、ヘルメットの色使いの方が印象が強かったかもしれません。

 

ですから、2000年いよいよ最高峰クラスに上がるという段階において、

受け入れ先となったホンダがどの程度、彼を評価していたのかが気になるところですね。

恐らくですけど、この時のホンダの評価が、結果的に、ロッシと袂を分かつことになる遠因にもなっているように思います。

 

 

 

前も後も

今シーズンのMOTOGPシーズンを終えて、様々なデータが

数字として発表される季節になりました。

 

MOTOGPクラスでは恒例のクラッシュの回数ランキングが

発表されました。

最多はKTMのレコーナで27回、

続いて、ホンダのマルク・マルケスの22回、

以下、同じくホンダのポル・エスパルガロの20回

同じくホンダのアレックス・マルケスが19回と

ホンダのファクトリーマシンを駆るライダーが上位に

並ぶ結果となりました。

 

マルクの転倒の多さはいつもの事ですが、それでも彼は今年

序盤の2戦と終盤の2戦の計4レースを欠場してのこの数字ですから

明らかに多いですよね。

加えて、かつてのマルクはFPや予選で転倒しても決勝は転倒しない

というのがありましたが、今年は決勝での転倒が増えたのも気になる部分です。

 

今回はこのホンダの転倒の多さの要因について触れていきたいと思います。

まず、ホンダの現行RC213Vのフロントの扱いにくさは前から定評のあるところで

これは特に2019年以降、その傾向が強くなっていますね。

2019年、ホンダはエンジンへの吸入レイアウトを変更してフレームの左右ではなく

ヘッドパイプを貫通して、吸入ダクトをエアクリーナーに導くようにしましたが

この変更によって、フレームのヘッドパイプ付近の剛性が高まってしまったようですね。

高まってしまったというのは、本来そこまで剛性を高める意図はなく、結果的に

高くなってしまったという意味ですが・・・。

これによってどうなったかというと、ブレーキをかけた時にある程度フレームの

ヘッドパイプがしなる事で、フロントタイヤに適正なグリップを発生させて

コーナーリングをするわけですが、このしなりが簡単に戻ってしまう。つまり

フロントタイヤのグリップが容易く失われるようになってしまったようです。

特にこの年からレプソル・ホンダに加わったホルヘ・ロレンツォは元々ハードに

ブレーキをかけてコーナーに入るライダーではなく、むしろ逆のスタイルの

ライダーですから、フロントからのスリップダウンを何回も味わうこととなり

彼本来の走りがどんどん失われていくことになりましたね。

このバイクできちんとコーナーリングするには、マルクのように極めて短い距離で

強く減速して、フロントのヘッドパイプをギュッと変形させて、その変形を維持して

きゅっと曲がるという彼の優れた反射神経に頼ったようなライディングが必須なようです。

実際、このマシンに初めて乗ったカル・クラッチロウはRC213Vに乗り慣れた彼でさえ

このマシンはダメだとコメントを残したくらいです。

本当に適正に曲がれるスイートスポットが狭いんでしょうね。

で、そこを外れると容易くフロントグリップを失うと。

 

そして、今年、怪我から復帰したマルクからはかつての常人離れした反射神経は

失われており、結果的に、このフロントのセンシティブな車両を制御することが

出来なくなって転倒が多発する結果になってしまったようです。

YouTubeの動画の中で青木ノブさんが触れていた無意識下の脊髄反射的な

フロントタイヤのスリップに対するフォローが出来なくなってしまったということか。

 

ましてやマルクのような超絶テクニックを持たない、普通の(?)一流ライダーである

ポルやアレックスの転倒が多いのも納得できる部分です。

 

これに加えて、ホンダにとって追い打ちをかけているのが、去年ミシュランが投入してきた新しいリヤタイヤです。

このタイヤはグリップ力が向上したと言われていましたが、ホンダとドゥカティには

全く合っておらず、タイヤのグリップをその性能を引き出すレベルまで

熱を入れることが難しいようです。

今にして思えば、マルクが大怪我を負ったハイサイドもほんのちょっとグリップを

失った瞬間に大きく飛ばされてましたから、ちょっとした荷重のかけ方の違いが

リヤタイヤからグリップを奪った結果だったのかも知れませんね。

 

今季のホンダ勢の走りで目に付いたのがとにかく、ハイサイド転倒が多い。

元々近年のMOTOGPではトラコンの効きをなるたけ減らして

ライダーがトラクションをコントロールする方向に進んでいるため

ハイサイドは増加傾向ですが、それでもホンダは多いですね。

特に雨の日には全くリヤタイヤがグリップしていないのが見て取れます。

極めて浅いバンク角でもアクセルを開けるとマシンが横を向いてしまう。

ライドハイトデバイス云々以前にフレームとサスとタイヤのマッチングが

全然良くないなという印象。

実際、シーズン終盤戦になるとポルがハード、ミディアム、ソフトの

どのタイヤも全くグリップしないとコメントしています。

シーズン終盤戦は路面温度が低いコースが増えてきますから、元々タイヤに

熱を入れるのが難しいマシン特性に拍車がかかったと推察されます。

実際、ポルトガルではポルがビッグハイサイドを喰らうことなりましたね。

 

元々ホンダのバイクはMOTOGPに参戦する6メーカーの中でも

後輪荷重が一番小さく、リヤタイヤにかかる荷重が少ない部類ですから

それが熱を入れられない一因と思われますが、それはあくまでも複数ある要因のひとつ。

 

ホンダが来季向けマシンの開発において、この課題をどうやって克服してくるのか。

克服しないと、当分、暗黒時代は続くことになりそうなだけに心配されるところですね。

2022年型プロトに乗ったポルはリヤのトラクションは改善されたとコメントしたようですが、

反面、フロントが押される形になり、フロントの改善が必要ともコメントしてますから

まだまだ問題は多いようです。