聖域無き改革

年末恒例のメーカー関係者インタビューの中でHRCの方が

2021年を振り返って、聖域なき改革と仰っていたんですよね。

 

それはここ2年間のRC213Vの不振を振り返り、マシンの開発改良に

対して、ここは触れないという部分を排して全面的に見直し改良を

進めていくという決意の表れだったと思います。

 

果たして、登場した2022年型RC213Vはルックスからして大きく変貌して

登場しました。

また、ルックスだけでなくテストに臨んだライダーから好感触のコメントが

聞かれ、特にポル・エスパルガロは好感触だったようですね。

 

昨年までのRC213Vの抱えているウィークポイントは大きく2つあって

ひとつは、2020年にミシュランが投入した新しいリヤタイヤのグリップを

上手く発揮できないこと。

昨年の開幕戦カタールで、レプソルのマシンが型落ちのモルビデリのM1を

直線で抜けないシーンがありましたが、あれはエンジンパワーが足りない

というよりは、リヤタイヤのトラクションが上手くかかって無くて、パワーが

きちんと路面に伝わっていないことを象徴するシーンでしたね。

また、シーズン中のハイサイドの多さも去年は印象が深いです。

リヤタイヤが深い部分でグリップしていないので、あっという間にグリップを

失ってしまうんでしょう。

これに対して桒田ディレクターは新しいミシュランタイヤは優しく接地させないと

いけないとコメントしていました。

それを受けてか、今年のRC213Vはフレームが更に柔らかくなって、しっとりと

リヤタイヤを路面に押し付けることが出来ているようですね。

加えて、ドゥカティが先鞭をつけたリヤの車高調整システム、通称シェイプシフターの

開発も好調なようで、リヤタイヤを路面に押し付けて逃さない高いトラクション能力を

発揮してくれているようです。

ポルによれば、彼はリヤブレーキを多用するライダーでとにかくブレーキングから

コーナーリング、立ち上がりまでほぼリヤブレーキを使っているそうで、そのため

リヤタイヤのグリップが凄く重要。

去年のマシンでは全く自分の走りが出来なかったけど

今年のマシンはそれが出来るとのことです。

 

もうひとつのウィークポイントはフロント周りの限界特性の改善ですかね。

それまでもRC213Vはフロントが切れ込みやすくって、多くのライダーが

その犠牲になっていましたが、それをこれまで放置していたのはマルク・マルケス

という類まれなるライダーの危機回避テクニックによって、転倒を回避し

結果を残し続けたという実績があったからでしょう。

しかし、2021年、負傷から復帰したマルクからはそのミラクルのようなセーブテクニックは

失われており、転倒を回避できず、そのまま転倒してしまうケースが多く散見されたように思います。

そうなれば、ホンダとしてはこのフロントのシビアな特性を回避するためには

フロント周りの改善はマストで、今年はその部分に着手してきたかなと。

 

具体的にはエンジンの搭載位置をやや後ろにしたかな?

ホントにミリ単位の話なってくるかと思いますが、それにより、先に述べたリヤのトラクション改善にも繋がりますし、フロントのシビアな特性も緩和されるかと。

実際、テストで乗ったライダー達からもブレーキングエリアでのフロントの特性が

変わったというコメントも出ていますね。

エンジンが前にあるとブレーキングの時に一気に荷重がタイヤに乗っかってしまって

フォークはフルボトム、タイヤも潰れ切って、ダンピング性能が失われ、容易く

タイヤが切れ込むことになりますからね。

ちなみに6メーカーのMOTOGPマシンの中で最も前輪荷重が多いのはホンダと

言われています。

これは高荷重をかけることによって性能を発揮したブリヂストンタイヤ時代の

車体ディメンションの名残だと思われます。

 

また、エンジンを下げることによって、タイヤとラジエターの距離が開くと、

カウル周りのウィングレットの効果も高まることになりますね。

アプリリアKTMなんかを見てもわかると思います。

これはフロントタイヤ周辺で発生する乱気流から遠ざけることで

ウィングレットに綺麗な風が当たるようにという狙いか。

 

ただエンジンの搭載位置を動かすということは、その上に載っている

エアクリーナーの形状も変わりますからエンジンパワーにも響きますし、

エンジンの後ろにある燃料タンクの形状も変わりますからもう車体が

ほぼ全面的に変わるくらいの大仕事になりますからリスクは高いですよね。

それをやってきたか。

 

こうした改良が功を奏した感じはテストの結果からわかりますが、それでも

他メーカーにアドバンテージを持ったというよりはようやく他メーカーと

同じ土俵に上がって来れたという感じですね。

戦いはこれからです。

 

でも、ダメだと思ったら大きく舵を切る。

これはホンダの良き伝統ですね。