前も後も

今シーズンのMOTOGPシーズンを終えて、様々なデータが

数字として発表される季節になりました。

 

MOTOGPクラスでは恒例のクラッシュの回数ランキングが

発表されました。

最多はKTMのレコーナで27回、

続いて、ホンダのマルク・マルケスの22回、

以下、同じくホンダのポル・エスパルガロの20回

同じくホンダのアレックス・マルケスが19回と

ホンダのファクトリーマシンを駆るライダーが上位に

並ぶ結果となりました。

 

マルクの転倒の多さはいつもの事ですが、それでも彼は今年

序盤の2戦と終盤の2戦の計4レースを欠場してのこの数字ですから

明らかに多いですよね。

加えて、かつてのマルクはFPや予選で転倒しても決勝は転倒しない

というのがありましたが、今年は決勝での転倒が増えたのも気になる部分です。

 

今回はこのホンダの転倒の多さの要因について触れていきたいと思います。

まず、ホンダの現行RC213Vのフロントの扱いにくさは前から定評のあるところで

これは特に2019年以降、その傾向が強くなっていますね。

2019年、ホンダはエンジンへの吸入レイアウトを変更してフレームの左右ではなく

ヘッドパイプを貫通して、吸入ダクトをエアクリーナーに導くようにしましたが

この変更によって、フレームのヘッドパイプ付近の剛性が高まってしまったようですね。

高まってしまったというのは、本来そこまで剛性を高める意図はなく、結果的に

高くなってしまったという意味ですが・・・。

これによってどうなったかというと、ブレーキをかけた時にある程度フレームの

ヘッドパイプがしなる事で、フロントタイヤに適正なグリップを発生させて

コーナーリングをするわけですが、このしなりが簡単に戻ってしまう。つまり

フロントタイヤのグリップが容易く失われるようになってしまったようです。

特にこの年からレプソル・ホンダに加わったホルヘ・ロレンツォは元々ハードに

ブレーキをかけてコーナーに入るライダーではなく、むしろ逆のスタイルの

ライダーですから、フロントからのスリップダウンを何回も味わうこととなり

彼本来の走りがどんどん失われていくことになりましたね。

このバイクできちんとコーナーリングするには、マルクのように極めて短い距離で

強く減速して、フロントのヘッドパイプをギュッと変形させて、その変形を維持して

きゅっと曲がるという彼の優れた反射神経に頼ったようなライディングが必須なようです。

実際、このマシンに初めて乗ったカル・クラッチロウはRC213Vに乗り慣れた彼でさえ

このマシンはダメだとコメントを残したくらいです。

本当に適正に曲がれるスイートスポットが狭いんでしょうね。

で、そこを外れると容易くフロントグリップを失うと。

 

そして、今年、怪我から復帰したマルクからはかつての常人離れした反射神経は

失われており、結果的に、このフロントのセンシティブな車両を制御することが

出来なくなって転倒が多発する結果になってしまったようです。

YouTubeの動画の中で青木ノブさんが触れていた無意識下の脊髄反射的な

フロントタイヤのスリップに対するフォローが出来なくなってしまったということか。

 

ましてやマルクのような超絶テクニックを持たない、普通の(?)一流ライダーである

ポルやアレックスの転倒が多いのも納得できる部分です。

 

これに加えて、ホンダにとって追い打ちをかけているのが、去年ミシュランが投入してきた新しいリヤタイヤです。

このタイヤはグリップ力が向上したと言われていましたが、ホンダとドゥカティには

全く合っておらず、タイヤのグリップをその性能を引き出すレベルまで

熱を入れることが難しいようです。

今にして思えば、マルクが大怪我を負ったハイサイドもほんのちょっとグリップを

失った瞬間に大きく飛ばされてましたから、ちょっとした荷重のかけ方の違いが

リヤタイヤからグリップを奪った結果だったのかも知れませんね。

 

今季のホンダ勢の走りで目に付いたのがとにかく、ハイサイド転倒が多い。

元々近年のMOTOGPではトラコンの効きをなるたけ減らして

ライダーがトラクションをコントロールする方向に進んでいるため

ハイサイドは増加傾向ですが、それでもホンダは多いですね。

特に雨の日には全くリヤタイヤがグリップしていないのが見て取れます。

極めて浅いバンク角でもアクセルを開けるとマシンが横を向いてしまう。

ライドハイトデバイス云々以前にフレームとサスとタイヤのマッチングが

全然良くないなという印象。

実際、シーズン終盤戦になるとポルがハード、ミディアム、ソフトの

どのタイヤも全くグリップしないとコメントしています。

シーズン終盤戦は路面温度が低いコースが増えてきますから、元々タイヤに

熱を入れるのが難しいマシン特性に拍車がかかったと推察されます。

実際、ポルトガルではポルがビッグハイサイドを喰らうことなりましたね。

 

元々ホンダのバイクはMOTOGPに参戦する6メーカーの中でも

後輪荷重が一番小さく、リヤタイヤにかかる荷重が少ない部類ですから

それが熱を入れられない一因と思われますが、それはあくまでも複数ある要因のひとつ。

 

ホンダが来季向けマシンの開発において、この課題をどうやって克服してくるのか。

克服しないと、当分、暗黒時代は続くことになりそうなだけに心配されるところですね。

2022年型プロトに乗ったポルはリヤのトラクションは改善されたとコメントしたようですが、

反面、フロントが押される形になり、フロントの改善が必要ともコメントしてますから

まだまだ問題は多いようです。