敗因
WSB2021年シーズンは今日、インドネシア マンダリカで
最終戦が行われ、パタ・ヤマハのトプラック・ラズガットリオーグルが
自身初、ヤマハにとっては12年ぶりのタイトルを手にしました。
それは同時に2015年から6連覇をしてきたジョナサン・レイ+カワサキが
破れたことを意味します。
昨年まで鉄壁を誇ったこのコンビが何故、今年ここまで負けたのか
その敗因を分析してみたいと思います。
その前に触れておきたいのは、WSBの規定である最大回転数制限の数値。
カワサキは今年、マイナーチェンジされたZX-10RRを投入しましたが
カワサキサイドの意図に反して、FIMはこのマシンを新型エンジンとは
認めず、最高回転数制限は去年のまま、据え置きの14600回転となっています。
ただ、この数字に関しては、そこまでカワサキに不利に働いていないのではないかと
推測されますね。
というのも、ヤマハの最高回転数制限が14950回転ですから、その差はわずか350回転。
ドゥカティのように圧倒的なエンジンの最高回転数の差ではありません。
実際、最終戦のマンダリカでのトップスピードを比較すると、レイが285km/h、
トプラックが283.5km/hをむしろヤマハの方が低いくらい。
つまり、回転数制限によるハンデが勝敗を分けた決定的要因ではないことがわかります。
それよりも、シーズン終盤、残り3戦となったポルトガルだったかで
KRTのグイム・ロダ監督が言った「私たちはレイに謝らなければならない」
という言葉が凄く印象に残っていますね。
ここから推測されるのは、今年、最高回転数が14600回転のままでも
これまでのシーズン同様、チームとライダーの力で何とかなるんじゃないかという
甘い予想が間違いだったという後悔の表れじゃないかということ。
もっともっとマシンのポテンシャルを引き出す必要があったのでは無いか?
という思いの吐露ですね。
実際、これまでのレイ+カワサキ陣営の最大の強みはピレリタイヤのSC0と
呼ばれるソフトコンパウンドタイヤの性能を最大限に引き出すことだったと思います。
レースではライバルの背後につけ、ライバルのタイヤが消耗してきたタイミングで
前に出ると一気に突き放すというのが勝ちパターンでした。
つまり「我々より上手く、ピレリタイヤを使いこなすチームは居ない」というわけです。
ですから、この大前提が崩されたことが今年、窮地に陥った原因のように思いますね。
もっとも、ドゥカティもヤマハも去年から同じSC0を履いていては叶わないと
わかって、スーパーソフトやスーパーソフトのデベロップメントタイヤを使う
ギャンブルのようなチョイスを度々していましたが、失敗したり、成功したりで
シーズン通して安定したリザルトを残すところまではセットアップが煮詰まって
いなかったですね。
ところが、今シーズンのトプラック+ヤマハ陣営はこれをやってのけた。
スタートからレイと同じペースで走り、レイよりも柔らかいタイヤを
リヤに装着しているにも関わらず、レース中盤を過ぎてもペースが落ちてこない。
それどころか、よりソフトなタイヤを履いているわけですから、ラップタイムは
速く、結果的に更に差を広げてゴールすることに・・。
そんな序盤が続いたことからレイ+カワサキ陣営は中盤に入ると、フロントタイヤに
ソフトタイヤより、より柔らかいスーパーソフトのデベロップメントタイヤを
履くようになりましたね。
(スーパーソフトのデベロップメントタイヤとは、元々レース距離が半分の
SPレース用のスーパーソフトをベースに、より耐久性を改善したタイヤです)
これはより瞬発力、絶対的な速さを追求する方向で、速さでまずトプラックに対抗しようという作戦だったと思います。
ただし、普段装着していないタイヤですからレース距離に行った時の持久性に疑問がある。
その部分はリスクを負っていて、それをレースウィーク中に何とかするという形でしたね。
これが最悪の形で表れたのがモストのレースで、レイはこのレース2度転倒しているんですよね。完全にフロントタイヤのゴムを使い切ってしまって、フロントのダンピング性能が
失われての転倒だったように思います。
それでも、シーズン中、カタルニア、ポルトガルで2度のテストを行い、フロントフォークのセットアップの改善に努め、何とかこのタイヤをモノにしようと努力を続けてきましたが、結果的にトプラック+ヤマハを
凌駕するレベルまでは持っていけませんでした。
レースにたら、ればはありませんが、シーズン開幕前からカワサキ陣営が最初から
このタイヤにセットアップを絞り込んで徹底的に走り込みを行っていたら、結果は
違うものになったかも知れませんね。
来季は7シーズンぶりにゼッケン65をつけるレイ+カワサキ陣営の反撃が
今から楽しみな2022年シーズンになりそうです。